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東京地方裁判所 昭和33年(ワ)8987号 判決 1961年5月12日

判  決

東京都千代田区丸の内二丁目八番地

原告

閉鎖機関南方開発金庫

右代表者特殊清算人

石橋良吉

右訴訟代理人弁護士

海老原隆

東京都中央区日本橋兜町一丁目七番地

被告

南方海運株式会社

右代表者清算人

藤田荘一

右訴訟代理人弁護士

鮫島龍馬

右当事者間の昭和三三年(ワ)第八、九八七号貸金返還請求事件について当裁判所は次のとおり判決する。

主文

被告は原告に対し金一、四〇九、一八〇円及び内金一、〇〇〇、〇〇〇円に対し昭和二〇年一〇月六日から完済するまで年五分の割合による金員を、内金四〇九、一八〇円に対し昭和二四年一一月一日から完済するまで日歩二銭の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  原告は主文第一、二項と同旨の判決及び仮執行の宣言を求め、その請求原因として次のとおり述べた。

一  被告は左記の二口の債務について原告に対し連帯保証をした。

(イ)原告は訴外ジャワ運航会社に対し昭和一九年一〇月一日、金一二〇万円を限度とし、弁済期昭和二四年一〇月一〇日、利息年五分と定めて、ジャワ運航会社の必要に応じ分割貸付をする契約をし、被告は同日その返済債務について連帯保証をした。

ジャワ運航会社は右契約にもとずいて原告から昭和二〇年四月八日金一〇〇万円を借り受けた。しかし今日にいたるまで右債務の支払はない。

(ロ)原告は訴外新南興業組合に対し昭和一八年六月一五日、金一、一五二、〇〇〇円を限度とし、弁済期昭和二三年六月一四日、利息年五分の定めで新南興業組合の必要に応じ分割貸付をする契約をし、被告は同日その返済債務について連帯保証をした。

訴外新南興業株式会社は昭和一八年一二月三一日新南興業組合の事業及び一切の権利義務を承継し、したがつて、また原告との右契約上の地位を引き継いだが、被告はその承継後も引き続き同会社のため原告に対し従来と同一内容の連帯保証をした。

新南興業株式会社は、右契約にもとずいて昭和二〇年九月一一日原告から一、一五二、〇〇〇円を借り受けた。同会社は会社経理応急措置法による特別経理会社となり、昭和二四年一〇月三一日整備計画は認可され、右計画によれば、右債務(元利とも)の七〇%は債権者である原告の負担として切り捨てられ、残り三〇%の債務(元利とも)に対し昭和二三年三月三一日より支払するまで日歩二銭の利息を付することになつた。従つて新南興業株式会社の本件債務は七〇%切り捨てられその元本は金三四五、六〇〇円、その末払利息金は金六三、五八〇円となつた。そうしてこの元利金合計四〇九、一八〇円に対し前記日歩二銭の利息が付される。しかるに新南興業株式会社は今日までその支払をしていない。

二 よつて原告は連帯保証人である被告に対し(イ)の金一〇〇万円及びこれに対する昭和二〇年一〇月六日から完済するまで年五分の割合による利息及び遅延損害金並びに(ロ)の金四〇九、一八〇円及びこれに対する昭和二四年一一月一日から完済するまで日歩二銭の割合による利息及び遅延損害金の支払を求めるため本訴に及んだ。

次に被告の抗弁に対し次のとおり述べた。

一、(イ)ジャワ運航会社の債務についての抗弁に対しジャワ運航会社が権利能力を有しないとの点は否認する。ジャワ運航会社はジャワ沿岸航路における運航業務等を行うことを目的とする一個独立の経済主体である点は認める。これは軍と被告会社との契約によつて設立されたもので、昭和一八年四月三〇日付軍政監の設立命令によつて法人格を与えられたのである。なる程ジャワ運航会社は日本の国内法によつて設立されたものではないが、軍は戦時占領地において立法、司法、行政の三権を有するから、その立法権にもとずいて前記命令により法人格を与えたのである。従つて原告とジャワ運航会社との本件貸付契約は有効である。

(ロ)本件連帯保証が軍の拒否できない命令によつてなされたとの点、右連帯保証は軍の存在及びその補償を不可欠の前提としているとの点、軍の消滅(この点は認める。)が事情変更に当るとの点、及び右連帯保証がジャワ運航会社の故意又は重大な過失にもとずく損失の及ぼす範囲に限られるとの点は否認する。

二  新南興業組合の債務についての抗弁に対し本件連帯保証は形式上だけで真実はその意思がなかつたとの点、原告が保証責任を追及しないと明言したとの点、右連帯保証は軍の存在と政府の補償を条件としているとの点及び敗戦等が事情変更に当るとの点は否認する。

(立証省略)

第二  被告は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

一 請求原因事実のうち一の(イ)の点を認め、その他の点は不知と述べた。

二  ジャワ運航会社の債務についての連帯保証に関する抗弁として次のとおり述べる。

(イ)ジャワ運航会社は、会社と称するが法律に認められた法人でなく、何等権利能力のないものである。従つて原告が主張する原告とジャワ運航会社との貸付契約は無効である。故にジャワ運航会社の主たる債務が存在しないから、被告の本件連帯保証債務は効力を生じない。

そもそもジャワ運航会社は、昭和一八年一月二二日付陸軍次官通牒(陸亜密第三六一号)及び同年四月三〇日付軍政監の設立命令により設立を命ぜられ、同年五月一日軍政監の認可によつて設立されたが、その性質は何等法律にもとずいて設立されたものでなく、従つて法人格を有せず、又資本すなわち基本財産として発起人等からの出資というものはなく、原告からの借人金を資金としたものである。従つてこのような性質のジャワ運航会社は、ジャワ沿岸航路における運航業務等を行うことを目的とする一個独立の経済主体ではあるが、法人格も有せず又法人たる実質も有しないから、権利能力を有しない。

(ロ)仮に原告のジャワ運航会社に対する貸付契約が有効に成立するとしても、この貸付債務に対する本件連帯保証契約は、軍の拒否できない命令によつて締結されたから、無効である。

(ハ)仮りに右主張が理由がないとしてもこの連帯保証は軍の存在とその補償を不可欠の前提としているので、軍がなくなると同時に本件連帯保証は失効した。蓋し、ジャワ運航会社は上述のとおり軍の命令で設立され、借入金を基金とし、何等資本の裏付がなく、又法人でもない。又その業務はすべて軍の指揮に服し自主的判断を許されない。ただ軍が自ら右業務を運営することができないから、ジャワ運航会社という組織をつくり、この業務を処理させたので、ジャワ運航会社は軍の代行機関にすぎない。従つて、民間資本から成り立ち営利を目的とする被告が戦争遂行のため営利を度外視し資本の裏付もない軍の代行機関であるジャワ運航会社の借入金の返済を連帯保証することは、軍の存在とその補償(現に、ジャワ運航会社の定款第一二条は会社の業務に因り蒙つた損失は会社の故意又は重大な過失がない限り軍政監が補償する旨定めている。)を不欠可の前提としなければ考えられず、原告もまたこのことを推察できていたはずであるから、この連帯保証契約には軍の消滅後でもなお連帯保証を存続させる意思がなかつたからである。

(ニ)仮りに右主張が理由ないとしても、当事者の予想しなかつた、かつ当事者の責に帰せられない敗戦により軍は消滅したから、事情変更の原則によつて右連帯保証契約を解除する。蓋し、本件連帯保証契約は前述のとおり軍の存在とその補償を不可欠の前提としており、原告もまたこのことを推察できていたはずであるから、敗戦による軍の消滅は事情の変更に当り、被告に連帯保証の効果を強制することは不当であるからである。

(ホ)仮りに右主張が理由がないとしてもその保証はジャワ運航会社の故意又は重大な過失にもとずく損失の及ぼす範囲に限られる。ジャワ運航会社定款第一二条第二項に「会社の業務に因り蒙りたる損失は軍政監之を補償する。但し損失が会社の故意又は重大なる過失によつて生じたる場合は此の限りにあらず」と規定され、この但書に規定される場合以外の損失は軍に補償されるから、原告の貸付金の返還に何等危険はない。従つて、被告の連帯保証はジャワ連航会社が故意又は重大な過失によつて右貸付資金を消耗し返還しない場合、軍から補償を受けることを怠つて返還しない場合及び軍の補償を受けながら返還しない場合に限られる。従つて、本件はいずれの場合でもないから、被告が連帯保証にもとずき支払をする責任はない。

三  新南興業株式会社の債務についての連帯保証に関する抗弁として次のとおり述べた。

(イ)仮りに訴外新南興業組合の原告に対する本件借受契約の証書に被告が連帯保証人として署名したとしても、右組合は戦地であるセレベス島において木造船建造を目的とし、その事業は極めて危険であつて、被告はかかる組合に対し保証をすることはないが、貸主である原告が銀行であるところから、信用貸付には物的又は人的担保を必要とするため、形式上被告を連帯保証人としたにとどまり、原告において右連帯保証は単に形式だけであつて真実連帯保証をするものでないことを知り、少くともこのことを知り得べかりしものであるから、連帯保証は無効である。

(ロ)仮りに右主張が理由がないとしても本件連帯保証に当つて前記事情により原告は保証責任を追求しない旨表示して、被告はこれを信じて連帯保証をしたのであるから詐欺にもとずく意思表示としてこれを取消す。

(ハ)仮りに右主張が理由がないとしても、これは軍の存在と政府の補償を条件としていたから、軍が消滅し、政府の補償が期待できない現在では保証責任は消滅した。蓄し、新南興業組合は昭和一七年一〇月二日付海軍大臣の指令書(官房機密第一二三六一号の三)によつて政府の決定にもとずき海軍の軍政担当地であるセレベス島カツサルにおいて木造船建造企業の担当を委託されたのであるから、戦地の危険にさらされ採算のとれないこの企業は海軍の責任と危険においてなされるべきで右組合は企業の損益いかんにかかわらず国に対する義務としてこれを遂行すべきである。従つてこのような企業には政府の損失補償が伴うのであるから、本件連帯保証は当然軍の存在と政府の補償が条件となつていたからである。

(ニ)仮りに右のような条件がないとしても、被告が連帯保証をした当時敗戦又は敗戦後の社会機構政府機構の変革にかかわらず、連帯保証を継続させる意思はなく、従つて敗戦及び敗戦後の社会機構、政府機構の変革は事情変更に当るから、本件連帯保証契約を解除する。

(立証省略)

理由

一、まず訴外ジャワ運航会社の債務についての連帯保証について判断する。

(一)  原告は訴外ジャワ運航会社に対し昭和一九年一〇月一一日原告主張の約定にて金一二〇万円を限度とする貸付契約をし、被告は同日その返済について連帯保証をしたこと、ジャワ運航会社は右契約にもとずいて昭和二〇年四月八日金一〇〇万円を借り受けたことは当事者間に争がない。

(二)    被告はジャワ運航会社は権利能力がなく、又法的主体となり得る実体がないから、前記貸付契約は無効であると主張し、原告は右会社は軍の占領地における立法権にもとずき軍政監の命令によつて法人格を与えられたものであると主張するから、この点について判断する。

右会社はジャワ沿岸航路における運航業務等を行うことを目的とする一個独立の経済主体であることは、当事者間に争がない。そこで、右会社の設立経過及び実体を検討すると、(証拠省略)被告は昭和一八年一月二二日付陸軍次官通牒により南方甲地域陸軍軍政主担任地域であるジャワ沿岸航路の運航業務を担当するよう協力方を通牒され、これを受諾したが、次いでジャワ軍政監より右業務を実施するためジャワ運航会社を設立することを命ぜられた結果、被告会社常務取締役天野寿雄に設立を担当させ、同年五月一日軍政監の認可を得て右会社を設立するにいたつたこと、右会社は定款を備え、上記のとおり、ジャワ沿岸航路の運航業務を目的とし、資金を金五五〇万円と定め(但し後に資金の額の定は削られた。)機関として理事長一名、常務理事一名、理事若干名及び監事若干名を置き、理事長は会社の業務を総理するとともに会社を代表し、業務執行による損益は会社に帰属するが、利益処分はジャワ軍政監の認可を必要とするものであること及び初代理事長には前記天野寿雄が就任し、その他の要員は被告より派遣されたことを認めることができる。

以上の事実を要約すれば、被告は軍よりジャワ沼岸航路の運航業務を担当することの要請を引き受けたが、軍政監の命令によつて自ら右の業務を運営することなく、ジャワ運航会社という一個独立の経済主体を設立し、これが右運航業務を運営することになつたことが明らかである。

原告はジャワ運航会社の設立に当つて軍政監の命令により法人格を与えられた旨主張し、乙第三号証の二(ジャワ運航会社設立命令書)に右会社を法人として取り扱う旨の記載があるが、右証拠のみでは原告の主張を認めるに十分でない。すなわち、右乙三号証の二と証人天野寿雄のジャワ運航会社には法人格がない旨の陳述と照し合せて考えると、前記「法人として取り扱う」旨の記載は上記認定した如く被告がジャワ沼岸航路の運航業務を自ら運営することなく、経済上独立した主体としてジャワ運航会社を設立してこれに右業務を運営させることを意味するものと解するのが相当である。しかし以上述べたとおりジャワ運航会社が法人格を有しないところから直ちに被告の主張するように右会社を権利主体たり得ないものとして本件貸付契約を無効とすることはできない。

ジャワ運航会社は上述のとおり一個独立の経済主体としてその業務執行機関を有し、ジャワ沼岸航路の運航業務を運営し、その損益の帰属者であつたが、社団の構成員たる社員を有せず、またその資金も借入金によつて賄われ、何人の寄付によるものでなく、従つて社団ないし財団に該当しないから、一種特有の経済主体と認める外はない。しかし、一個独立の経済主体でその活動による損益の実質上の帰属者である以上法人格のない社団又は財団と同様の意味における経済主体であつて理事長がその資格において行為をしそれによつて権利を得、義務を負担するものと解する。けだし、ジャワ運航会社は戦時占領地における軍政の下において生じた特有な現象として権利義務ないし法律関係の帰属者として考えることが、法律関係の解決に至当なものであり、また実定法の体系から見ても、なる程設立当時はその資金も借入金であつたが、右会社の業務運営の結果財産を生ずるに至れば、財団に準ずるもの(寄附行為がない点はことなる)というべきもので、上述のように一定の管理機構のある以上民事訴訟法第四六条の趣旨からおしても、法的に無視し得べきものでないからである。

以上述べたところによれば、本件金一二〇万円を限度とするジャワ運航会社の借入契約は理事長天野寿雄の締結行為により有効に成立したものと認めるべきである。従つてジャワ運航会社に権利能力がないから右借入契約は無効であるとの被告の主張は採用できない。故に被告の本件連帯保証はこの点において無効とすることはできない。

(三)  被告は、本件連帯保証は軍の拒否できない命令によつてなされたものであるから無効である旨主張するが、(中略)これを認めるに足りる証拠はない。

(四)  被告は、本件連帯保証は軍の存在とその補償を不可欠の前提としているから、軍がなくなると同時に失効した旨主張する。ジャワ運航会社は、既に認定したとおり、陸軍次官通牒によつて被告がジャワ沿岸の運航業務の担当をすることになり、被告会社常務取締役天野寿雄が設立事務を担当し、設立とともに同人が理事長となり、その要員は被告会社の人をもつてあて、資本借入金によつて賄われたものである。そうして(証拠省略)ジャワの運航会社は軍の監督の下に業務を行い、その業務により蒙つた損失は、右会社の故意又は重大な過失によつて生じた場合を除き、軍政監がこれを補償することに定められ、現にその補償が二回位なされたことを認めることができる。しかし、右認定の事実は、何ら本件連帯保証が軍の存在とその補償とを条件としている根拠とはなり得ない。

けだし、ジャワ運航会社の業務上の損失を軍が補償するということは、決して軍がジャワ運航会社の負担する個々の具体的債務を代つて履行することを意味するものではなく、また本件連帯保証の結果ジャワ運航会社が業務上損失を受け、その損失を軍が補償すべきものとしても、この故に同会社が軍、従つて国に対しその補償を求め得ることは格別、このことから当然に、本件連帯保証が軍の存在とその補償とを条件としたものということはできないからである(軍の消滅は当然には国の責任を阻却しない)。他に本件連帯保証につき、軍の存在とその補償とを条件とした趣旨を窺うべき証拠は全然存しない。

(五)  被告は、本件連帯保証は、軍の存在とその補償とを不可欠の前提とし、軍の消滅は事情変更に当るから、いわゆる事情変更の原則により本件連帯保証契約を解除すると主張する。上記認定のところから、本件連帯保証がジャワ運航会社の業務上の損失を軍が補償する事情の下においてなされたことは、十分にこれを理解しうるところである。しかし、さればといつて、原告との関係で被告が軍の存在とその補償とを不可欠の前提とした趣旨はこれを認めるに足る資料がないから、軍の消滅は毫も本件連帯保証の帰趨に影響はない、のみならず、軍の消滅が必ずしも国の責任を阻却しないことは、前説示のとおりである。したがつて、本抗弁もこれを採用することはできない。

(六)  被告は、さらに、本件連帯保証は、ジャワ運航会社が故意又は重大な過失によつて原告に弁済しなかつた債務の範囲に限り効力がある旨主張する。

しかし、被告主張のジャワ運航会社定款第一二条第二項但書の定めは、全然その主張の根拠となるものではない。

けだし、この規定は、単に軍は、ジャワ運航会社の故意又は重大な過失による損失を補償しない旨定めたものにすぎず、同会社の第三者に対する債務、また、従つて、その債務の保証自体に関しては、何ら言及しているものではないからである。他に被告主張の事実を首肯させる資料は存しない。

以上判示したとおり被告の抗弁はすべて理由がないから、被告は本件連帯保証についてその責に任すべきものである。

二、次に訴外新南興業株式会社の債務についての連帯保証について判断する。

(一)  原告の主張する請求原因事実一の(ロ)は、(証拠省略)によつて認めることができる。

(二)  被告は本件連帯保証は単に形式だけであつて真実連帯保証をする意思なく、原告はこのことを知り、少くとも知り得べかりしものであると主張するが、この点に関する(証拠省略)被告の抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

(三)  被告は、本件連帯保証は保証責任を追求しない旨明言を受けそれを信じて保証したから詐欺にもとずきこれを取消す旨、軍の存在と政府の補償を保証の条件としていたから、軍が消滅し政府の補償が期待できない現在ではその責任は消滅した旨、及び敗戦により本件連帯保証をした事情に変更を生じたから解除する旨主張するが、被告の右抗弁事実を認めるに足りる証拠はない。

以上判示したとおり被告の抗弁はすべて理由がないから、被告は本件連帯保証についてその責に任ずべきである。

三、よつて、被告は原告に対し(イ)訴外ジャワ運航会社の債務につき連帯保証人として金一〇〇万円及びこれに対する貸付日の後である昭和二〇年一〇月六日から完済するまで約定利率年五分の割合による利息及び遅延損害金を、(ロ)訴外新南興業株式会社の債務につき連帯保証人として金四〇九、一八〇円及びこれに対する整備計画認可の日の翌日である昭和二四年一一月一日から完済するまで整備計画にもとずく利率日歩二銭の割合による利息及び遅延損害金をそれぞれ支払う義務がある。従つて原告の請求はいずれも理由あるものとしてこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言につき同法第一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第八部

裁判長裁判官 長谷部茂吉

裁判官 上 野  宏

裁判官 中 野 辰 二

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